2013年のはじめ頃、俺は休みの日に街へでかけた。
用事は何かの買い物でもしにいくとか、そんな程度のものだった。
特に大切なものを買うわけでもなかったので、ぼんやり考えごとを
しながら歩いていたら、途中で道に迷ってしまった。
いつも歩いている街で道に迷うこと自体、おかしなことだったが
その時は特段、不思議にも思わなかった。
少し薄暗い路地に入ってしまうと、そこは冬にも関わらず
生暖かい空気が流れていて、風呂敷をひろげて色々な小物を取り扱う
よくある露店がひとつだけ店を出していた。
だがそれを商売にしているはずの、肝心の人間はどこにもいなかった。
俺はその露天に並んでいる品物を10分近く手に取ったりしてながめた。
普段なら見もしない露店をなぜ10分も見ていたのか、
今振り返って考えてもよくわからない。
ただ、なぜかその時は「そうすることが正しいこと」だと思ったのだ。
さらに数分が経過すると、背後から声が聞こえてきた。
「何か気に入ったものでもあるかい?」
男性にしては少し高い声だが、女性にしては低すぎる声だった。
後ろを振り返ると、そこには一頭の猿が二本足で立っていた。
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